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東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1044号・昭56年(ネ)1474号・昭55年(ネ)1161号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

同控訴人は、被控訴人らの安全設計義務違反に基づく損害賠償請求は、昭和四七年三月三一日の原審第七回準備手続期日において初めてなされたものであつて、時効消滅後の請求である、と主張する。

そこで案ずるに、一件記録によると、被控訴人らは訴提起の時点(昭和四六年三月一〇日)では控訴人三菱地所に対し、設置又は保存の瑕疵ある土地の工作物の所有者としての民法七一七条による責任、並びに本件部屋の賃貸人である控訴人三菱地所の被用者が本件サウナ浴場の安全を確認する業務上の注意義務を怠つた過失に基づく同法七一五条による使用者責任を主張していたところ、昭和四七年三月三一日の原審第七回準備手続期日において同日付準備書面に基づき安全設計義務違反を被用者の過失の一つとして追加主張したことが認められる。

ところで、本件のように社会的事実としては単一の火災事故のため生命侵害の損害が発生した場合における損害賠償請求の単一性ないし同一性については種々の見解が存するが、この点に関し、訴訟上の請求はその内容をなす実体法上の権利または法律関係によつてその単一性ないし同一性が識別されるという見解に従うとしても、たとえば民法七〇九条あるいは七一五条(同条は七〇九条によつて律せられる被用者の不法行為を前提とする損害賠償責任を定めたものである)に依拠する損害賠償請求権がその要件の具体的態容の如何にかかわらず常に単一であるとしなければならないものではなく、これを右法条の要件の一つである過失に則していえば、右法条の請求権は、過失の内容が異つても、原則として単一であるとすべきであるが、その内容の如何によつては別異の請求権を発生させる例外的な場合があり、この場合には、訴訟上の請求としても当然別個のものと取り扱わなければならず、過失(甲)を理由とする請求によつて生じた消滅時効中断の効力は過失(乙)を理由とする損害賠償請求権には及ばないとすべきこともあるであろう。しかし、本件において、一件記録によれば、前記安全確認義務の違反として主張された事実は、控訴人三菱地所が同藤田に本件部屋を賃貸するに当り、本件サウナ浴場が防消火設備、避難設備を有するかどうか、内装にいわゆる新建材を使用していないかどうかなどその安全を確認しなかつたことであり、また、安全設計義務違反として主張された事実は、控訴人三菱地所が控訴人藤田の依頼に基づいて本件サウナ浴場を設計するにつき万全の防消火設備、避難設備を備えず、可燃性の新建材を使用し、出口の表示を欠く密室構造のサウナ浴場とし、訴外の業者に当該設計に従つて施工させたことであること、そして、原審の弁論の展開に伴い、前者の主張は「建物賃貸人としての建物利用者に対する安全配慮義務に基づく責任」(原判決事実摘示第一の三1(一)(1)参照)として、後者は「建物の設計を依頼された者としての建物利用者に対する安全設計義務に基づく責任」(前同(2)参照)として補充、精練されるに至つたが、原判決事実摘示に記載された当該主張と訴状ないし前記準備書面記載の主張はその基本的骨格を同じくするものであること、安全確認ないし安全配慮義務違反とされた事項と安全設計義務違反とされた事項を比較対照してみるのに、両者はほとんど同一であり、ただ前者は本件建物の賃貸人である控訴人三菱地所の管理等担当従業員が本件サウナ浴場の利用者に対し安全設備を配慮するよう確認、配慮すべきであるとの観点から、後者は控訴人三菱地所の設計担当従業員が本件サウナ浴場の設計者として右浴場の利用者のために安全な設計をすべきであるとの観点から注意義務が構成されているに止まり、訴訟の実際においても控訴人三菱地所側にとつて、両個の過失は、その基礎的事実関係に関する限り共通の反論と反証で防禦すれば足り、ただ注意義務の構成に関し別異の対応を必要とするという程度の内容の違いがあるにすぎないのであつて、両個の過失がそれぞれ別異の使用者責任を発生せしめるものと解するのは相当でないというべきである。以上によれば、被控訴人らのした安全設計義務違反の過失に基づく使用者責任の主張の追加は、攻撃方法の追加主張であり、新たな権利行使にはあたらないから、控訴人三菱地所の時効の抗弁は失当というべきである。

(蕪山厳 浅香恒久 安國種彦)

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